そんな全部が、

たとえば待受画面を変えただけで気持ちがガラッと変わるような。夜中に届いた、たった一通のラインで安心して眠れるような。あの子のことがいつまでも引っ掛かっていることに気づいてワーッと叫びだしそうになったり、企画が頭のなかでぐるぐる進み始めたときの手が止まらない感じだったり。単純なあたしはいつも自分の正直な気持ちに振り回されてばかり。でも、そんな自分のことがどうしようもなく憎たらしく、どうしようもなく好きなのだ。たとえ誰にも見つけられない星になったとしても、たのしく光っていたい。「言葉にしてくれないとわからないと言うけど…… 言葉にしたらしたでどれが本当の私の言葉なのかわからないのだ」。「なにか伝えたいことがあって 伝わってはじめて言葉になるのよ」「自分の言葉で理解するだけじゃダメよ」「相手に伝わる言葉で話さないと」「でもまずは私が言葉にしなくちゃいけないの」。想像もし得なかった12月。部屋は静かで、あたたかくて、おなかがなっている。「いい一年にしてね」。かなしいし、さみしいし、いろんなことがこわい。でもそれ以上に、そんな全部がいとおしいからまだ大丈夫。あのとき歩道橋で立ち尽くしていたあたしはいま、ここにいるよ。

近藤聡乃『A子さんの恋人』

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