「ふるえる程のしあわせが欲しい。それはどこにあるのかしら?」

昨日、自分のためだけに買った新しい服を着て、家を飛び出す。やっぱりまだ浮き足立っていてすこし小走り。危ない危ない、今日は盛大にこけてもユニクロのデニムが守ってはくれないとすこし速度を緩める。駅についてイヤホンを忘れてきたことに気づいたけど取りには帰らない。今日は何かをかき消すように聴く音楽は必要ない。

そうして向かった安野モヨコ展。

一本一本の線が、言葉が、登場人物たちの魂が。突き刺さって感動して、わたしは言葉を求めて漫画や本を読んだり、音楽を聴いたりしているのだなって。

「ふるえる程のしあわせが欲しい。それはどこにあるのかしら?」

等身大サイズの漫画からいまにも飛び出してきそうなカヨコ。ギャーギャー怒ったり泣きわめいたり、あたしの幸せはどこだどこだどこだーーーって次から次へと。たしかにそこに、そんな血の通ったカヨコがいて、そうやって生きてきたことを思い出したし、どれだけ打ちひしがれてもあたしの人生はあたしのものなんだったって。譲らねえぞって、誰のためにも生きてやらねえぞって、これはいったいなんの決心? なんのための宣言? ウンウン言いながら、京王線の流れる景色に目をやる。

帰ってきて、「中国行きのスロウ・ボート」を本棚から抜き取って読み返した。

“僕の放浪は地下鉄の車内やタクシーの後部座席で行われる。僕の冒険は歯科医の待合室や銀行の窓口で行われる。僕たちは何処にも行けるし、何処にも行けない。”

金沢の安西水丸展で買って、18きっぷを握りしめて読み耽ったことを思い出す。日本海側を行く鈍行の景色。いいのかこれで?まちがってないか? いいんだこれで、今はこのまま。この高まりに乗じて欲しかったお財布も買ってしまった。へへっ。先のことなんかどうでもいい、毎分毎秒、このまま潰えてもいい、そんな勢いで生きていたい。


安野モヨコ『ハッピー・マニア』

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