「おいしくなぁれ」
「おいしくなぁれ」とマグカップのふちを三回叩く音。ーーわっ、なんてかわいい人!
なんだかふーっと心ぼそくなって暖房をつけちゃった。暖房をつけると、かえってこの時期のいろんなことがふーっと思いおこされてきゅっとなった。
ルールが必要だ。もしくは三点セット。
どんなルールや三点セットがあれば、わたしはそっと元の姿に戻れるんだろう。
たとえばすきな本の背表紙や、装幀や、主人公や、読んだときのこと、大好きな一節をひとつひとつ丁寧に思い浮かべていく。ほぉら、こんなにもあるのよ、なんて強気になってみせる。
『晩年』『ウエハースの椅子』『さがしもの』『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』『人間そっくり』、『サマーバケーションEP』『ユージニア』『カキフライがないならこなかった』『シーラという子』『冒険者たち』『わかったさんのクッキー』『青の炎』『時計じかけのオレンジ』『変身』『東京、音楽、ロックンロール』、、『』ってなんだか仰々しくてかわいくないね。
「私は話しかけてくれる瀬田に感謝をしながら、自分も、いつものように話そうと努めた。軽口を叩いて、すぐに笑う、いつもの私のやり方で話そうとした」
こんな風に、何も考えずに、やっていればいいのよ、できるかしら。いろんなことを恐れてできないことをやるか、こうやってなんとなくやりすごすかしか、選択肢が残されていない。どちらにも相当な体力がいる。とっても嫌なやつになってしまったらいい。戦に臨むような気持ちで億劫だ。
大好きなバンドのチケットが取れなくたっておちこまない。そう言い聞かせるのよ。
「そういうトコロも全部 かわいいヒトね」なんていつも心の中で歌っていることも教えてあげない。
こっそり送っている念力が全部まちがわずに配達されればいいのにね。
負のオーラの方が強いなんて信じない。それでしかわたしはたたかえないことを知っている。笑っちゃうくらいなんにもないんだから。それに、そうなりたくなくってもそうならざるを得ない瞬間があること、ちゃんと知っているから。それなのに、とりつかれてしまった人をみながら、わたしは毅然としていなくちゃいけない。鬼だね、と思ったよ。信じないよ。そう信じるしかないんだ。鬼になるか、のみこまれるしかないのよ。でもなんだか、そんなオーラって意外とビックリマークひとつで蹴散らせたりするのよね!ほらね!
「帰り道、私は注意深く、来たときと別の道を選んで帰る。上手く一人に戻れるように」
つまりは、そういうことなのよ。こわいんだ。
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