「やりたいことをやっているだけさ 口だけのやつは置いていくぜ」

ようやく東京にたどり着いて、足早に向かう先はライブハウス。いったい何か月ぶりだろう。すこし緊張して早くつきすぎたので、近くの公園でタコの遊具を眺めながら発泡酒片手に音楽を聴く。東京に帰ってきた感じがある。別に遠くにいかなくたってあたしはいつだってあたしのやり方でひとりになれるってことを思い出す。毎日ですり減ると、そんなことも忘れちゃうもんだからやんなっちゃうね。こころのなかに豊島美術館がある。だから、風が吹くと、身体に穴が開いたみたいに風が通っていくのを感じる。

一息ついて、会場へ。LIQUIDROOM。もともとは新代田FEVERの予定だったけど、ソーシャルディスタンスがとれるように、偶然空いたリキッドに急遽変更したのだそう。足元のマークで保たれるディスタンス、マスクの着用、大声禁止(歌うなら小声で)、帰宅後の手洗いうがい、ここから絶対に感染者出さないようにしような、の誓い。ライブハウスなんてとんでもない、そんな風潮のなかでの開催に、主催のATFIELDの青木さんの言葉には胸を打つ切実さがあった。

SEが大きくなる。照明が落ちる。そしていよいよ一音目が鳴ると、音がある!!音がみえる!!とそれだけでうれしくなっちゃって、定められたスペースのなかではしゃいでいた。身体中に音がしみ渡る。ドラムの音が心臓を揺らす。ライトがギラギラとステージを照らしている。

初めて東京初期衝動を聴いた夜から、たくさんの記憶の中の夜がつながっていく。目の前に、あのときとおんなじ曲をおんなじように力を振り絞って歌うしーなちゃんがいる。

つながる、つながる、つながる。

しまいには、このリキッドルームで小山田壮平をみてドキドキがとまらなかったあたしとも、OGRE YOU ASSHOLEに身を任せるだけのあたしとも、Wiennersにはしゃぐあたしとも、 Superorganismにワクワクしっぱなしでギャンギャンになったあたしともつながっていく。

ライブハウスは、やっぱり曲を聴くためだけの場所じゃない。そこに音があることを、そこに自分がいたことを、今いることを確かめる場所。初めてライブハウスに足を踏み入れた高1のときからずっと、なりふり構わず音に夢中になれる大切な場所だった。もう昔みたいなぐっちゃぐちゃのライブハウスには戻れないかもしれないけれど、この身体はたしかに何度も何度も身体中で音を受け止めてきたし、このこころはそれに突き動かされていくつもの感情が生まれてきた。その記憶は残り続けるし、そのひとつひとつがいまのあたしをつくっていることに違いはない。

「やりたいことをやっているだけさ 口だけのやつは置いていくぜ」

髪を振り乱して駆け抜ける東京初期衝動。今日のライブは当たり前にあったライブじゃない。かほちゃんの脱退も、コロナで延期しまくったライブも、できることを一生懸命考えて行った抗体検査も、本当にいろんなことを乗り越えて、苦しんで、苦しんで、ぜんぶの思いを音楽にのせて、やっとの思いで辿り着いたライブ。そんな姿をみて、あたしなにがやりたかったんだっけ、いつのまにかまた尻込みしちゃって実現性や将来ばかりみてないか、あたしにとって音楽は本当に尊いんだよ、あたし大好きな音楽や言葉や作品のそばにいてえよ、あーーーーーって小さく呟きながら泣いてしまった。再生ボタンを押してばかりの日々はもういやだ! うううと唸りながらも這いつくばってやる。

ふと思い返すと、あたし今日いったい何文字書いてんの? いったい何を書いてんの? ただ、とまらない、とまらない、とスマホのメモにバチバチに打ち込んでいる。最近ずっと頭の中で言葉が流れている。いろんなものを能動的に見ているからか? 単純に余裕ができただけなのか? それともこころのキャパが拡張されたんか? なんでもいい。なんでもいい。とにかく書きたいことがありすぎる。あふれでるものを全て放流してどんどん循環させていく。その先にどんな感情があるのか、いったいどこにたどり着くのか。今はただ楽しみでしかたがない。

東京初期衝動「再生ボタン」

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